下記の文章は、「小説予備校メルマガ」2021年2月8日号に掲載したものです。
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【誰を喜ばせたくて小説を書く?】
最初に質問させてください。
あなたは、誰のために小説を書いていますか?
書いた小説で、誰を喜ばせたいと考えていますか?
もしもあなたが、「自分のため」に小説を書いて、その小説で「自分を喜ばせたい」のだとしたら、これから私が書く文章は、あまり役に立たないかもしれません。
私はあなたに、「誰か」を喜ばせる小説を書いてほしくて、これから文章を書きます。
私がこれまでに得た経験と知識と情報から、誰かを喜ばせるためのおもしろい小説の書き方ならお伝えできます。
でも、自分を喜ばせる小説の書き方というのは、結局はその当人以外にはわかりません。
なので、「せっかく小説を書くのだから、少しでもおもしろくして、大勢に読んでほしい!」とお考えであれば、「自分のため」ではなく、「だれかのため」に小説を書くようにしましょう。
今、この場で、そう決めてください。
もちろん、ただただ小説が好きという人や、物語を想像するのが好きな人もいるでしょう。
それに、作家になって文学賞をとって有名になりたいという人も、夢の印税生活をしてお金儲けしたい、という人もいるはず。
小説を書く理由は、その人その人でいろいろ違うはずですし、どんな想いをもって小説を書いていても、その想いが純粋であろうと、不純であろうと、全然かまいません。
誤解しないでほしいのですが、「誰かのために小説を書かないとダメだ!」という気はまったくありませんし、自分のために小説を書いている人を否定しているわけでもありません。
ただ、少なくとも私のお伝えしている創作論は、おそらく響かないというだけです。
なぜなら、「おもしろい小説」と「誰かを喜ばせる」はセットだからです。
「おもしろい」とは、他者の評価です。どんなに自分が「おもしろい!」と思っても、誰かに読んでもらって「おもしろかったよ!」と言われなければ、それはおもしろい小説とはいえません。
なので、「おもしろい小説」を書きたいのであれば、自分ではない「誰か」を喜ばせるために小説を書くようにしてください。
今後は、みなさんが「誰かを喜ばせるために小説を書いている」という前提でお話をすすめていきます。
といっても、このような小説の書き方術を読もうと思った時点で、誰かのためにおもしろい小説が書きたい、という目標を持っている人がほとんどのはず。
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さて、一つ考えてほしいことがあります。
具体的に「私は〇〇さんを喜ばせるために小説を書いている」というように、特定の読者を決めてほしいのです。
その理由を説明する前に、そもそも、私たちが生きている世界の商品はすべて、誰かを喜ばせるために存在しています。
正確に書くと、誰かを喜ばせている商品以外は、残っていません。
一度、この文章から目を離して、あなたの周りを見回してみてください。
パソコンも、イヤホンも、スマホも、プリンタも、机も、イスも、コーヒーも、本も、すべて、あなたを喜ばせているのではないでしょうか。
ちょっとわかりづらいかもしれないので、コンビニのお菓子コーナーで考えてみましょう。
お菓子コーナーには、いつも同じ商品が陳列されているわけではありませんよね。
どんどん入れ替わっていて、人気のない商品は、人気商品や新作に取って代わられています。絶えずその繰り返し。
このとき、人気のあるお菓子とないお菓子の差は、当たり前ですが、喜ばせている人の数です。
そして、人を喜ばせられない商品は、廃品となり、その存在が消えてしまうのです。
「人を喜ばせられない商品は、存在価値がない」
残酷ですが、この事実は非常に大きい。
にもかかわらず、この視点が欠けてしまっている小説初心者の人が多くいます。
自分の仕事だったり、周りを見渡せばすぐに理解できるような当たり前のことなのに、自分の小説の話になると、急にこの点が見えなくなってしまうのです。
まず大前提として、「小説は、誰かを喜ばせるために存在している」ということを心にとめてください、
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そして、次に考えてほしいことがあります。
それは、あなたにとっての「誰か」とは、いったい誰なのか、ということ。
たとえば、たまに出版社宛に本を出した人から企画書が送られてくるのですが、その企画書のターゲットに「30代女性」や「60~70代男性」というように書かれていることがあります。
こういうのはターゲットとは言いません。
でも、こんな失敗は決して少なくありません。
大手出版社の人間だって、同じようなことを平気で何度もやります。
以前、私は大手出版社で編集者として働いていました。
そこで担当した本の新聞広告を出すことになったとき、その会社のPR担当が作った広告には、「本を愛するすべての人へ贈る一冊」というキャッチコピーがでかでかとありました。
その広告は、ほとんど効果が出ませんでした。
「30代女性」も「60~70代男性」も「本を愛するすべての人」も、範囲が広すぎるのです。
ターゲットの範囲を広くしすぎると、だれにも突き刺ってくれません。あっさりとスルーされてしまいます。
ですので、「誰か」というターゲットは、もっと具体的に、かなり範囲を狭めて考えてみましょう。
とくに私がオススメするターゲットは、ある特定のたった一人にしぼってみること。
「私の小説は、友だちの〇〇さんを喜ばせるための小説です」
「私は、お母さんに楽しんでもらうために小説を書いたんだ」
「18歳の私自身がこの小説を読んだら、絶対に泣いちゃうだろうな」
友だち、家族、過去の自分……このように、たった一人の読者を決めて、小説を書くようにしてみてください。
そして、ほかの人はともかく、その一人が絶対に喜ぶものを書く、という意気込みで書いてほしいのです。
「たった一人にしぼったら、その人以外はだれも喜んでくれないんじゃないの?」と思った人もいると思います。
でも、決してそんなことはありません。
さきほどと矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、人の好みはそんなに多種多様ではなく、たった一人しか喜ばない、なんてことは絶対にないのです。
実際はむしろその逆です。
一人を喜ばせることのできる小説は、大勢の人を同じように喜ばせることができるのです。
私の好きな槇原敬之さんの作った「遠く遠く」という曲があります。
田舎から上京した主人公の元に、ふるさとから同窓会の案内状が来た。今はこっちで夢をかなえるためにがんばっているから、みんなに会いたい気持ちは強いけれど、同窓会は欠席する、というような歌詞です。
槇原敬之さんの中でも、とくに「この曲が好き!」という人の多い曲で、やはりこの歌詞に共感しているわけです。
ただ、槇原さんはこの曲を作ったときは、「こんな限定的なシチュエーションを歌った曲、誰も聞きたくないんじゃないか」と思ったらしいです。
でも、実際はそうならず、むしろ反対の結果になりました。
一部の人を喜ばせるために書いた歌詞に、多くの人が感動したのです。
このように、ターゲットを絞れば絞るほど、ターゲットには深く突き刺さりますし、それだけでなく、多くの人にも深く突き刺さるのです。
ですので、小説を書こうというときは、まず最初に、誰を喜ばせようとしているのかを、自分に問うてみてください。
その答えによって、ストーリーも登場人物も世界も、全然違ったものになってきます。
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以上です。
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