「おもしろい小説を書きたいけど、メルマガってどんなこと書いてるの?」
「月に980円も払う価値あるの?」
小説予備校メルマガに対して、こんなふうに思っている方も多いはず。
ということで、今回はメルマガ内の1コーナー「あの短編小説を徹底分解」を全文掲載しようと思います。
以下は、2021年8月2日号で「笛を吹く家」(澤村伊智)を取り上げたものになります。
こちらを読んで、メルマガを読んでみたくなった方はこちらから
https://160.co.jp/?page_id=190
それでは、少し長めの5000文字程度になりますが、参考にしてみてください!
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2:あの短編小説を徹底分解
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<コーナーの内容紹介>
このコーナーでは、プロ作家が書いた短編小説を取り上げて、それを分解しながら、学んでおきたいことや、参考にできる部分などを解説していきます。
「小説を書きたい!」と思っている人のほとんどは、長編小説を書こうと考えているはず。
短編小説だけを書いていきたい人は、あまりいないのではないでしょうか。
でも、いきなり長編というのはなかなかハードルが高い。これは、マラソン初心者に、いきなりフルマラソン42.195キロを走れというようなもの。
かなりの確率で途中棄権してしまいますし、いいタイムを出せるはずもありませんよね。
つまり、これまで小説を書いたことのない人や、書き慣れていない人が、一念発起して長編小説を書き始めても、途中で筆が止まってしまったり、仮に最後まで書けても、全然おもしろくなかったり。
このような残念な結果になってしまうのです。
そうならないためには、どうすればいいか。
長編を書きたいのなら、まずは短編をたくさん書くんです。
一見遠回りに見えるかもしれませんが、短編を書いて小説の書き方や、終わらせ方などを学んでから、長編を書くのが、おもしろい長編小説を書けるようになる近道なのです。
そうやって短編を書いていくための一助となるのが、このコーナーというわけです。
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今週は、ミステリのプロが厳選した短編集『本格王2021』より、「笛を吹く家」(澤村伊智)を取り上げて、分解、解説していきます。
『本格王2021』(本格ミステリ作家クラブ選・講談社文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065238285
【文庫カバー裏の解説】
<激動の2020年、選ばれた謎はこれだ! 作家・評論家が厳選した、年に一度の短編傑作選。笛吹太郎「コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎」、羽生飛鳥「弔千手」、降田天「顔」、澤村伊智「笛を吹く家」、柴田勝家「すていほぉ~む殺人事件」、倉井眉介「犯人は言った。」、方丈貴恵「アミュレット・ホテル」。>
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【ホラー作家のミステリー短編】
この「笛を吹く家」を書いた澤村伊智さんは、『ぼぎわんが、来る』というホラー小説でデビューしています。
この小説、私は読みましたが、ハッキリ言ってむちゃくちゃ怖かった・・・。
文字だけでここまで読者を恐怖させられるなんて・・・と思ったものです。
それ以降も澤村さんはコンスタントに作品を発表しています。
ちなみに、『ぼぎわんが、来る』は『来る』というタイトルで映画化されています。
https://eiga.com/movie/88644/
そういったホラー出身の作家さんが書いたミステリーだけあって、ちょっとした謎解きはもちろん、怖さもありますし、しかも社会問題も描かれています。
読後、けっしてスカッとはしませんが、なにかが消えずに残る、そんな秀作となっています。
ここから下はネタバレありです。
この作品をネタバレなしで解説するのは無理なので。
もしも、実際に読んでミステリー的要素も楽しみたいという方は、ここから下は読まずに、次のコーナーにうつってください。
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まずは、この小説の主人公が抱えている3つの要素「欠点」「目的」「気づき」を解説していきます。
【欠点】
一人息子の子育てが大変な主人公と妻。ある日、家族三人で散歩に行くと、とても気味の悪い屋敷を見つけ、なんだか気になる。実はその屋敷では、人が死んでいたのだった。
【目的】
妻が家で一人で休んでいて息子は知人に預けているという。だが主人公は、その説明に違和感を感じ、解明したい。
【気づき】
実は、屋敷では事件後、子どもがいなくなる事件が起こっていた。妻は37歳で引きこもりの息子のDVに疲れ果てていて、屋敷に息子を入れて、連れ去ってほしいと思っていたのだ。そして、主人公も同じ想いだった。
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読んでいただけたらわかるのですが、一人息子として描かれていたのは、実は37歳の中年ひきこもりニート。しかもDVもあり。
そのことがわかるのはラストのほうで、わかったうえで再読してみると何カ所か、違和感のある書き方もしていますね。
ですが、冒頭に「作者より」として掲載してある文章が巧妙で、その効果もあって、一人息子は私たち読者の脳内で勝手に、「まだ聞き分けのつかない、言葉も文章としてはうまくしゃべれない幼い男子」となってしまいます。
しかし、息子が中年男性として読むと、「ハンバーグが食べたい」と夜中にわめいたりするのは、ちょっと笑えてもきますね。
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つづいて、ストーリーの土台となる5つの質問に対する回答を確認していきましょう。(ページは数ページにまたがっているので、おおよそです)
★質問1★
【主人公が「目的」の達成に向けて、「自分の意志で」行動し始める場面を作ってください。そこで、どんな出来事があったのでしょうか?】
P202
土曜日の午前に毎週三人で行っている散歩から帰り、主人公がうたたねをしていたら、妻が子どもを連れて、自転車で出ていった。
その姿を見て、主人公は気味の悪い屋敷へと向かった。
★質問2★
【質問1の出来事の前に、主人公の「目的」が何なのかを予感させるような場面を作ります。それはどんな出来事でしょうか?】
P197
ある日、仕事が早く終わり家に帰ると、妻がソファで寝ていた。家中を探したが、息子の姿が見えない。慌てて妻を起こして聞くと、息子を預かってもらっているというが、嘘くさい。
★質問3★
【物語の真ん中くらいで、読者の感情が一番盛り上がる場面を作ります。主人公を絶好調にしたり、または絶不調にしたりさせましょう。そこでは、どんな出来事が起こっているでしょうか?】
P205
気味の悪い屋敷では、人が死んで空き家になっただけでなく、その後、周囲で子供がいなくなる事件が頻発していたことを妻から知らされる、
★質問4★
【物語の後半で、主人公が絶体絶命のピンチに陥り、どん底に落ちる場面を作ります。どんな出来事が起こったのでしょうか?】
P206
日常的に息子に殴られたりしている妻は、もう精神的に限界が来ている。息子を屋敷に連れて行き、ほかの子どもたちのように、息子をいなくしようとしていたのだった。
★質問5★
【質問4の出来事の後に、主人公は、自分がどうすれば「欠点」を乗り越えることができるのか、「気づき」を得る場面を作ります。そこでは、どんな出来事が起こったのでしょうか?】
P209
妻がいかに息子のことで追い詰められていたかを知り、自分は息子を根本的にどうしなければならないかを無視していたことに気づく。
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40文字×17行で30ページに満たない短編です。
そのうちの前半は、屋敷をとりまく気味の悪さや、息子の手に負えない感じを描いています。
ストーリーが進み、日常→非日常へと変わるのは、全体の半分以上を超えてからですね。
ホラーはとくに小説の世界観が大切になってきます。
その世界観を作り出すためには、小説内の「日常」を細かく描き、読者を小説の世界観のなかに引きずりこまなければなりません。
ただし、世界観の描写を書きすぎると、ストーリーがなかなか前進しないため、読者が離れていってしまうリスクもあります。
この小説は本当に上手にその点を描いていて、小さいけれど不穏な出来事を「日常」で作りつつ、世界観も描写しています。
このように世界観を作りこみたい人は、参考になると思います。
また、非日常→新日常へと変わるのはラストに近いところです。新日常をあまり描かないのは、短編ならではです。
ちなみにラストは、主人公が屋敷の中に入っていき、息子の姿を探しつつ、「見つからないでくれ」と願いながら終わるというもの。
決してスカッとはしませんし、ハッピーエンドともいえませんが、ホラーならではともいえる読後感を私たちに提供してくれますね。
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つづけて、細かい描写や、テクニック的なことについて解説していきます。
みなさんの作品に応用できることなので、しっかり身につけてくださいね。
【ホラー作家らしい着眼点】
比喩表現などもそうですが、その小説の世界に合った表現というのがあります。
たとえば、高校生同士の甘酸っぱい青春恋愛小説なのに、ファーストキスシーンで突然いやらしい官能小説の描写だったり、ハードボイルド小説のような描写を使ったらどうでしょう?
単体でその比喩表現は素晴らしくても、小説としてはマイナスになってしまいます。
このように、その小説の世界にそぐわない表現というのは、実は結構やってしまう人が多いので、気を付けたほうがいいかもしれません。
そして、ホラー作品にもやっぱりホラーならではの描写というのがあります。
ザラザラしているというか、湿度が高いというか、ぬめっとしているというか。
この小説でもそれはもちろん出てきます。
たとえば、気味の悪い屋敷の描写。
「見慣れた住宅の形をしていない」
「足のない郵便ポスト」
「郵便受けからは元が何色かも分からない、ボロボロになったチラシが何枚も飛び出していた」
「家に見下ろされている」
ほかにもホラー作家らしい着眼点の描写が随所にあるので、参考になると思います。
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【どんでん返しを狙う】
「最後のページでだまされた!」みたいな、いわゆるどんでん返しの小説というのがあります。
数年前にけっこう流行りましたし、それが好きな人も多いでしょう。
・男だと思ったら女だった
・若者だと思ったらおじいさんだった
・AとBは同一人物だと思ったら、別人だった
などなど。
映画化もされた『イニシエーション・ラブ』などが代表的ですね。
ちなみにこの短編は、子どもだと思ったら中年おっさんだったというわけです。
冒頭から息子は
「(自転車の)後ろに座った息子」
「唇をとがらせる」
「普段は一言二言しか話さないが、文章でしゃべった」
などと書かれています。
どんでん返しをする際の注意点は、まったくノーヒントではいけないということ。
読み返したときに、「ここはそういうことか!」と思わせられるような点を書くということです。
この短編でも、屋敷を家族三人で見ていると警察官に話しかけられて「怪しい人がいるって聞いた」と言われたり、「(息子を)いまになって預かってくれる人なんて、見つかるわけがない」など、読者に違和感を与えています。
再読すると「違和感の正体は、そういうことか」と納得するわけです。
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【いいタイトルの作り方】
この小説のタイトルは「笛を吹く家」となっています。
このタイトルには2つの由来があります。
・気味の悪い屋敷に住んでいたのが笛吹(うすい)さん
・子どもが連れ去られる事件が多発(ハーメルンの笛吹き男)
おそらく、最初はハーメルンがアイデアとしてあって、そこに苗字を笛吹にしたのかなと思いますが、このタイトルに決めた理由が2つあると、もうこれ以外のタイトルは考えられないといえるのではないでしょうか。
タイトルって悩みますよね。
ある作家さんは最初にタイトルと登場人物名をすべて決めてから書き出すそうですし、また別の作家さんは、最後の最後まで仮タイトルにして、完成させてからタイトルを決めるそうです。
正解はありませんが、「こういう理由で、このタイトル以外考えられない!」というくらいの理由があるといいですね。
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ということで、今回は澤村伊智さんの『笛を吹く家』を解説し、自作に応用できるものをあげてみました。
【自作に試してみよう】
1 「日常」で小説の世界観を細部まで描き構築する
2 読者を驚かせるどんでん返しを狙う
3 このタイトル以外考えられないようなタイトルを、ちゃんと納得できる理由とともに作る
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以上になります。
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