ある小説家を口説いた話
今回は、「参考にするのと鵜呑みにするのは別物」という話です。
私が以前担当した、ある小説家とのエピソードから始めますね。
その作家は、ある新人文学賞を受賞してデビュー。
作品ごとに切り口を変えて、毎回おもしろい小説を出していたのですが、ある文庫がスマッシュヒットして話題に。
私もその作品を読み、「こりゃおもしろい! うちで書いてもらいたい!」と感じ、すぐに手紙を書き、
「うちの出版社は小さいですが、なんとか書いてもらえませんか? まずは一度、お会いしたい!」
と打診しました。
数日後、「まずは会いましょう」と返事をいただき、その方は関西在住だったので関西で会うことに。
そこでなんとか口説き落とし、純愛小説を書いてもらえることになったんです。
それから数か月が過ぎ、ついに原稿が届きました。
15万文字近くあり、本にするなら400ページを超える大作。
ストーリーは、高校時代に付き合った男女が、あることをきっかけに別れてしまうけれど、その後再会寸前まで近づいてはすれ違い、それを何度も繰り返し、そんな二人がいよいよ出会う瞬間で終わる、というもの。
会社近所のカフェで一気読みして、店のスミで5分くらい泣きました。
「この人に書いてもらって本当によかった」
そう思ったものでした。
赤字がほとんど修正されなかった
編集者の仕事は、ここから始まるともいえます。
1週間くらいかけて原稿に赤字を入れたのですが、とくに「これはどうだろう?」と思ったのが、セリフの後の【~と言った】の多さ。
カギカッコで囲まれたセリフは、【~と言った】と書かなくても言葉を発していることはわかりますよね。
なので、あまりにも【~と言った】が多いと、ちょっと間延びした印象を受けやすいですし、書いても書かなくても変わらないなら、書かないほうが読みやすくなる。
そんなところが気になったので、【~と言った】が出てくるたびに、「削る?」「多いからトル?」と赤字を入れたのです。
そうやって赤を入れたゲラをその小説家に戻して、約ひと月後。
私の赤字を見て、修正された原稿が戻ってきました。
読んでみると、【~と言った】がほとんどそのまま、削られていなかったんです。
私が編集者として入れた赤字を、著者がスルーしたことに対して、私はどう考えたと思いますか?
「全然直ってないじゃんか! くそっ!」
と怒ったと思いますか?
むしろ喜びました!
実は、【~と言った】が直っている箇所もあり、きちんと一つ一つを精査して、それで修正するかどうかを決めてくれていたんです。
私の赤字を鵜呑みにせず、とはいえ全く考慮しないわけでもなく、参考にしてくれたということ。
プロは参考にしても鵜呑みにしない
これは編集者の赤字に限ったことではありません。
もしかしたらみなさんの中に、
「ここは違うフォントのほうがいいのでは?」
「ここのサビは、もっと盛り上げれば?」
「このキャラをあそこで登場させれば?」
などと誰かに言われたら、それをそのまま受け入れてしまう人、いませんか?
実は、周囲の人の意見を、なんでもかんでも鵜呑みにしてしまう新人クリエイターも少なくありません。
一方、たとえばプロのデザイナーは、
「ここはどうしてこのフォント?」
「この飾りはこっちに移動できない?」
「ここを青から紫にしたらどう?」
といった質問や意見が来ても、
「ここはこういう理由でこのフォント以外、考えられません」
「この飾りがここにあるのは、こういう効果があるんです」
「こういう理由で、紫よりも青のほうがいいんです」
などと、すべて明確に答えることができます。
それは、信念を持って作っているから。
もちろん彼らは、周囲の質問や意見をまったく無視するわけではない。
そのほうがいいと思ったら、すごく柔軟に対応します。
あくまで、周囲の意見を参考にすることはあっても、すべて鵜呑みにしないということ。
みなさんもきっと、自分の作品を公開したら、周囲から「ここはもっとこうすれば?」といった意見が届くはず。
でも、一番あなたの作品を理解しているのは、あなた自身です。
周囲の人ではないんです。
なので、参考にはしても、鵜呑みにしてはいけません。
周囲の意見や指摘に対して、
「ここはこういう理由があって、こうしている」
といえるのであれば、不安になる必要も、折れる必要もありません!
ということで今回は、「参考にするのと鵜呑みにするのは別物」という話でした。
この記事も、鵜呑みにせず、参考にしてください!
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さて。
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