スーツを着て、満員電車で通勤したくない――。
約15年前。大学4年生の私は、そんなことを考えながら、就職活動をしていました。
そんなナメた人間が、誠実に仕事を探している同級生に勝てるはずありません。
一つも内定をもらえず、夏を迎えていました。
けれど、たまたま知った編集者の姿を見て、衝撃を受けます。
スーツは着ていない。
朝までゴールデン街で酒を飲んで、始発で家に帰って、寝て、昼過ぎに出勤。
これこそ私の天職だ!と思い、編集者になることを決めました。
とはいえ、出版社は狭き門。
結局、正社員としての新卒採用ではなく、アルバイトとして、社員3人の小さな出版社に潜り込むことになりました。
そんな私には、編集者としての矜持なんてありませんでした。
売れる本を作れれば、それでいい。
それだけを求めて、本を作り続け、出版業界のどん底から、少しずつ脱出を図りました。
転職回数が5回を超えたときに入った会社で、10万部のベストセラーを出しました。
映像化もされました。
数々の(本当にたくさんの)賞を受賞しました。
編集者の私も、いくつも取材を受けました。
講演会に呼ばれもしました。
調子に乗りました。
天狗になりました。
恩を忘れて、その会社を辞めました。
次に入った会社は、新しくて小さい会社でしたが、自分ならばすぐにベストセラーを出せると思っていました。
そこでは、小説も担当し、何冊も出しました。
もともと小説は大好きで、編集者になるからには小説を編集したいと思っていたので、小説の書き方から、売り方まで、寝る間も惜しんでひたすら勉強しました。
まったく売れませんでした。
担当した小説は、内容にもプロモーションにも自信はあったのですが、すべて初版止まり。
本を出せば出すほど赤字が膨らんでいったその会社は、倒産寸前になり、昨年末、従業員を全員解雇したのです。
2020年1月1日、私は失業しました。
ベストセラー編集者から、一気にどん底へ――。
そして今。
私は何がしたいのか。
何をできるのだろうか。
編集者として生きてきた約15年間を振り返りながら、毎日毎日、頭が痛くなるまで考えました。すると、本当にしたかったことが見えてきたのです。
それはすごくシンプルでした。
私は、まだ世の中に出ていない小説家を見つけて、応援して、彼らの小説で出版業界を盛り上げたい。
いま、出版業界は悲鳴をあげています。
本はどんどん売れなくなってきました。
とくに、ベストセラー作家以外の小説は、まったく売れません。
当然、宣伝にお金をかけることもできず、新人作家の小説に関しては、出版社はプロモーションをまったくしないといっても良いでしょう。
でも、私は小説が好きです。
同じくらい、小説家という生き方も好きです。
だから、まだ世の中に発見されていない才能を持った小説家を見つけて、応援したい。
そして、彼らの小説を多くの人に広めることによって、出版業界を盛り上げたい。
私にできることなんて、数少ない。
けれど、これまでに培った経験と情報を発信して、未知の才能に道を作ることならできます。
そのために、このサイトを作りました。