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2:あの短編小説を徹底分解
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<コーナーの内容紹介>
このコーナーでは、プロ作家が書いた短編小説を取り上げて、それを分解しながら、学んでおきたいことや、参考にできる部分などを解説していきます。
「小説を書きたい!」と思っている人のほとんどは、長編小説を書こうと考えているはず。
短編小説だけを書いていきたい人は、あまりいないのではないでしょうか。
でも、いきなり長編というのはなかなかハードルが高い。これは、マラソン初心者に、いきなりフルマラソン42.195キロを走れというようなもの。
かなりの確率で途中棄権してしまいますし、いいタイムを出せるはずもありませんよね。
つまり、これまで小説を書いたことのない人や、書き慣れていない人が、一念発起して長編小説を書き始めても、途中で筆が止まってしまったり、仮に最後まで書けても、全然おもしろくなかったり。
このような残念な結果になってしまうのです。
そうならないためには、どうすればいいか。
長編を書きたいのなら、まずは短編をたくさん書くんです。
一見遠回りに見えるかもしれませんが、短編を書いて小説の書き方や、終わらせ方などを学んでから、長編を書くのが、おもしろい長編小説を書けるようになる近道なのです。
そうやって短編を書いていくための一助となるのが、このコーナーというわけです。
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【重松清の短編集『ビタミンF』を取り上げます!】
来週から数回にわたって、2001年に直木賞を受賞した短編集『ビタミンF』の中から、いくつかの短編を取り上げていきます。
『ビタミンF』(重松清・新潮文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4101349150
【文庫カバー裏の解説】
<38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。一時の輝きを失い、人生の”中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか――」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。直木賞受賞作。>
私がその短編のあらすじを抜き出して、それをもとに説明していきますが、実際に読みながらのほうが、学べる点も多いはずなので、ぜひ読んでみてください。
絶版にもなっていませんし、ちょっとした文庫コーナーのある本屋さんならたいていの店で置いていると思います。
『ビタミンF』の帯に「涙腺キラー・重松清」「最泣の一冊」と書かれていますが、重松さんといえば、とにかく泣かせる小説で有名です。
また、映像化される作品も多く、『流星ワゴン』『その日の前に』『とんび』あたりは、もしかしたら映画かドラマを見たことのある方もいるかもしれませんね。
個人的な重松清ベストは、『疾走』です。
「お前は~~」という「二人称」で書かれた珍しい小説なのですが、読んでいてどんどん苦さと痛さが深く重くなっていきます。
けっして爽快感もなく、すっきりした読後感を味わえるわけでもなく、ただただ沈痛な気持ちが残るので、そういうのが好きな人にだけオススメです。
映画『ダンサーインザダーク』が好きな人は、たぶん好きになると思います。
私は10年くらい前に、ある文学賞の受賞パーティで重松さんをお見かけしたことがあるのですが、そのときもすでに超売れっ子作家だったので、まわりに大手出版社の編集者が大勢取り巻いていて、お話するどころか、名刺を渡すこともできなかったという苦い記憶があります。
そのころから、私は大手出版社の文芸編集者がちょっと苦手という……まあ、それはどうでもいいのですが、重松さんは長年、第一線で書き続け、ヒット作を量産している作家さんです。
当然、その作品はむちゃくちゃ勉強になることだらけです。
そのあたりも解説していきますので、次号からお楽しみに。
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まだ、どういう書き方で取り上げていくか悩んでいるのですが、次回は、『ビタミンF』の第一話『ゲンコツ』を取り上げます。
登場人物とあらすじだけ、今号にのせておきますが、当面はいろいろと試行錯誤していきながら、いいやり方を模索してみます。
『ゲンコツ』(『ビタミンF』より)
A:加藤雅夫
B:吉岡
C:加藤の妻
D:岡田(父)
E:Dの息子
【あらすじ】
1
AとBは同期で、ともに入社16年目の38歳。二人とも営業課の主任で、今夜はそれぞれの部下たちとともにカラオケに来ている。
Bは酔っぱらって「仮面ライダー」の主題歌をフリ付きで歌っている。苦笑いしながらその姿を見ているAに、Bの部下(28歳)が話しかけてきた。その部下は自分を「もうオヤジです」というが、Aは「甘いよ」と返す。
トイレに行って、自分のたるんだ腹の肉をつまむA。
その後、AとBは一緒にタクシーに乗り帰宅。Bは「まだ」38歳だというが、Aは「もう」38歳だという。今の年齢は中途半端だといいあう。
2
タクシーと電車を乗り継いで、家のあるニュータウンの駅に着いたA。最近はおやじ狩りが起きていて、この駅前広場も若者のたまり場となっている。駅から徒歩で家に帰る途中も、そんな若者たちを用心しなければならない。
公園のわきに、ジュースの自動販売機がある。Aは自販機メーカーの営業マンで、その自販機はライバル社のものだった。
Aは、駅からの帰り道でいつも「仮面ライダー」の主題歌を歌っていた。もう25年前の歌だ。
家に帰り、風呂から出ると、妻のCが話しかけてきた。昨夜、二階のD宅で、中三になる息子のEが暴れて、父のDを殴ったと聞かされる。Eは去年から不良になり、学校でも問題児だった。
Aにも小5と小2の息子がいる。「息子にやられるなんて情けない父だ」というが、Cと話をするにつれ、4年後には自分もあぶないかもしれない、と考え出す。
また、最近はCとの夜のおつとめも減っていて、それより長く寝たいと思うようになっていた。胃薬を飲み、眠るA。
3
翌日、昼食中に課長から話しかけられ、最近買った護身用グッズを見せられた。約2万円で、高いと感じたが、課長は「自分の身は自分で守る。とはいえ抵抗したら怖いから、これはお守りだ」という。
課長が去った後、Bが話しかけて来る。Bは昨日の酒が残っているというが、フライと肉のミックスグリル定食を持っていた。Aはヘルシー定食だったが、Bも海藻サラダとヤクルトを追加で頼んでいた。
食後、席に戻ったA。席で自分のゲンコツを見る。誰かを殴ったのはいつだったろう。自分のゲンコツが頼りなく感じ、課長のもとに行こうとしたが、ふと我に返る。
4
数日後。Aのマンション前に若者が毎晩集まるようになった。最初はAも無視していたが、Cから「声をかけて、注意をして」と言われる。若者の中には、Eもいるらしい。自治会の防犯委員に任せようというが、その防犯委員がAの家だったのだ。
布団の中でAは考えごとをする。Aは子供のころから正義感が強く、普段はおとなしいが、理不尽なことや誰かを守るときには相手に立ち向かっていた。ケンカの勝敗は負けが多いが、それは年上や人数の多い相手に闘いを挑んだ結果。
また自分のゲンコツを見て、左手の手の平でぱちんと鳴らすと、Cが起きてしまった。そのまま夜の営みをする。若いころのような性欲からではなく、自販機のメンテナンスのために巡回するようなものだ。だが、Cが果ててもAは果てず、中途半端に終わってしまったのだった。
翌朝、出社しようと家を出ると、マンションのエントランスに、顔にあざのあるDの姿があり、落書きを消していた。
その姿に、落書きをしたガキもその親も殴ってやりたいと思うが、それはすぐに淋しさとむなしさに変わる。
マンションを出て振り向くと、まだDの姿があった。それは首をはねられたあとの罪人のように思えた。
5
夜、Bと居酒屋へ。マンション前に毎晩いる若者や、Dの話をする。マンション前にいる若者がいなくなった後に帰りたくて、Bと時間をつぶしているのだ。「情けない」とAは自分のことを思った。
Aは父を殴ったことはないが、高校に入ったころには、もう勝てると思っていた。そのころの父の年齢と、今の自分の年齢に大差がないことに気づく。
「おれら、年老いてきてるのかな?」「まだだろ」そんなやり取りの後、Bにゲンコツをつくってもらう。Bのゲンコツは丸っこかった。
その後、駅からマンションへ帰る途中、やはり「仮面ライダー」の曲を歌っていたA。すると、自動販売機のところで、若者たち5人を見つける。いつもマンション前にいる顔だ。彼らは自販機の釣銭口に犬の糞を詰めるいたずらをしていたのだ。
Aは「そこで何やってる」と声をかけるが、若者たちはにやにや笑うだけ。その中にDに似た若者もいたので、「お前Eだろ」というと、Eは仲間と去ろうと歩き出す。「掃除をしろ」とAは言うが、Eから「今度殺す」と言われてしまう。
自販機を汚され、自分の仕事を踏みにじれらた気になり、怒鳴り声をあげて追いかけようとすると、一斉に若者は逃げ出したが、Eだけ転倒し、逃げ遅れた。
6
手と足をケガして、歩けないEを家まで送ることにするA。その前に、自販機をきれいにする。
Eの肩を抱きかかえて歩くのは無理なので、Eの父Dを電話で呼び出すことにする。「呼びだすな。てめえ、殺すぞ」とEに言われるが、「少し黙ってろ」というA。その声は、「ゲンコツの声」だった。
Dに来てもらい、DにEをおぶってもらうことにする。3人でマンションに向かうが、Aは少し足早になり、DとEとの距離をあける。彼らは何かを話していたが、聞き取れない。こういう気づかいをできるところが大人なんだ。
Dは汗だくになりながらEをおんぶして家に連れ帰った。
七階にあるAの家に上昇するエレベータで、でたらめなシャドーボクシングをするA。ケガが治ったらEに復讐されるかな。課長が持っていたグッズを買おうかな、など考えるが、答えは出ていた。
エレベータが止まり、扉があくと、廊下で助走をつけて、ライダーキックのポーズをとる。その姿をCに見られてしまったのだった。
(終)
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次号から、徹底的に分解していきますので、ご期待ください。
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以上です。
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