みなさんは、どのように小説を読んでいますか?
「ただ楽しむだけ」というのも、もちろんいいのですが、小説家を目指しているなら、小説に限らずあらゆるエンタメから、自作に取り入れることのできるものを少しでも見つけたいですよね。
「そんなこといったって、どうやって自分の小説に取り入れる要素を見つければいいのか、わからないんだよ」
と思った方もいることでしょう。
今回は、そんな方に参考になる記事をお届けします。
直木賞作家の西加奈子さんの短編集『おまじない』(ちくま文庫)の中の短編『マタニティ』を分解して、そこからストーリーを作るうえで学べるところを解説してみようと思います。
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まずは、本の紹介から。
短編集『おまじない』
https://www.amazon.co.jp/dp/4480437371
「カバー裏のあらすじ」
【「あなたは悪くないんです。」(「燃やす」)「私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ。」(孫係)「弱いことってそんなにいけないんですか?」(「マタニティ」)――さまざまな人生の転機に、まじめさゆえに孤独に思い悩んでしまう女性たちの背中をそっと押して、新しい世界に踏み出す勇気をくれる魔法のひとこと。珠玉の八篇、ついに文庫化! 巻末に長濱ねるとの特別対談を収録。】
さて。
『マタニティ』は、38歳で妊娠をした女性が主人公。
注目してほしいのは、主人公のネガティブさです。
ネガティブな人の思考回路といいますか、物事をどうやってとらえるのかが、ユーモラスに、それでいてちょっと哀しく感じられるように描かれています。
たとえば、恋愛。
恋人がせっかくできたけれど、彼のことが好きすぎて、徐々に恋人から愛されていることが不安になっていき、熱量を分散させるために浮気をして、その結果、恋人からフラれてしまう……。
このような女性が思いもよらず妊娠したとき、どう考えるのか。
そのあたりを追って読み進めと、面白いと思いますよ。
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さて。
ドラマチックなエンタメ小説の主人公が絶対に背負っている3つの要素、というのをご存じですか?
くわしくは、下記の記事を読んでいただきたいのですが、答えを書くと「欠点」「目的」「気づき」の3要素です。

小説を読みながら、この3要素をしっかりと「欠点は~~。目的は~~。気づきは~~」というように言語化できれば、その小説のストーリーの構造を理解できたといっても過言ではありません。
ですので、勉強のために小説を読むという場合はとくに、この3要素が何なのかをよく考えながら読み進めていくといいでしょう。
それを繰り返していくことで、確実に小説を書く力はアップしていきますよ。
それでは『マタニティ』の主人公の3要素はどんなものでしょうか。
【欠点】
母親の影響で、ネガティブ思考が強く、いいことがあってもすぐに同等の悪いことを考えてしまう。そんな自分が大嫌い。
【目的】
ネガティブ思考ではない、自信があって自立していて、幸せを幸せのまま受け止められる女になりたい。
【気づき】
自分の弱さを認めてあげることで、生きやすく、強くなれるんだ。
この短編を読んでいないと、すこしわかりづらいかもしれないので、可能であれば読むことをオススメします。30分くらいで読めますし、文庫でも出版されていますので。
さて。
3要素の内容について少し説明しますね。
女性が主人公の場合はとくにですが、その性格に母親の影響が色濃く表れるというものがあります。ある意味「呪い」になってしまっているともいえます。
少し前に、「毒親」という言葉が流行しましたが、これは父親と息子、もしくは母親と息子にはあまりいわれません。ほとんどが、「母と娘」の関係性です。
やっぱり母と娘というのは、ちょっと独特なのかもしれませんね。
で、この小説でも、主人公のネガティブな性格は母親譲りであるとなっています。
母は、
「父は六十四歳のとき肺がんで死ぬまで、母の心底喜ぶ顔を見たことなんてなかったのじゃないだろうか」
と書かれるほどのネガティブさで、さらに主人公は、母のそんな性格が大嫌いだったのに、哀しいことにそのネガティブな部分を引き継いでしまっているわけです。
3要素で大切なのは、それぞれの要素の関係性です。
どういうことか、説明しますね。
一見すると「欠点」を克服するのが「目的」なのですが、仮に「目的」を達成したとしても、「欠点」は克服されません。
そうではなく、「気づき」を得ることによって、「欠点」は本当に克服されるのです。
『マタニティ』の場合も、もちろんそうなっていますよね。
仮にネガティブ思考を克服して幸せになれたと思っても、それは偽りの幸せでしかありません。
「気づき」にあるように、そんな母親譲りのネガティブ思考も含めて自分自身なんだと認めてあげられた時が、彼女が本当に幸せになれた時なのです。
ここはよく忘れがちなので、しっかりと理解しておいてくださいね。
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せっかくなので、この小説から1点だけ、みなさんの作品に応用しやすいものを教えちゃいますね。
私は、西加奈子さんといえば「笑い」だと思っています。
ここまで文章だけで笑わせてくれる人は、非常に珍しい、というか、唯一無二と言っていい気がします。
それは、この『マタニティ』でも、もちろん顕在です。
たとえば。
主人公が妊娠検査薬を使い、妊娠していたら現れる青い線を発見したときに、
P142
「こんなふうに例えるべきではないけれど、陰毛に白髪を見つけてしまったときのような、そんな感じだ」
とたとえています。このたとえ、なんか笑えませんか?
比喩表現というと、やっぱり「今日の夕日は、まるで季節真っ盛りのみかんのような色だった」みたく、なんかカッコいいものにしがちですよね(これはへたくそですが)。
もちろんそれでも良いんです。
比喩を使う以上は、中途半端にだれもが書きそうな比喩を使うよりも、書いていてドヤ顔になるくらい凝った表現にしたほうが、伝わりやすかったりするのです。
でも、多くの人は「なんかカッコいい比喩を書きたい」と思うので、実は結果的にはオリジナリティがなかったりもしてしまうもの。
上に書いた夕日の比喩なんて、似たようなことを考えた人が大勢いるはずです。
一方、引用したような「陰毛に白髪~~」つまり恥ずかしいことでたとえることは、実はあまりやろうとする人がいません。
おもしろいだけでなく、ちょっとした差別化に、そしてオリジナリティにもつながるというわけです。
もちろん、作品のテイストによりますが、参考にしてみてください。
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ということで今回は、西加奈子さんの短編を題材にして、プロの小説からどうやって自分の作品に取り入れていくか、具体的に解説しました。
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